原価も送料も上がる今、自社ECで値上げしてもお客様が離れない価格の決め方
アンリミテッドアム株式会社 CEO
帝国データバンクの調査では、2026年10月の飲食料品の値上げは3,153品目、値上げ1回あたりの平均値上げ率は10%でした。2026年の値上げは1〜12月の判明分で2万187品目になり、2年連続で2万品目を超えました。値上げの要因は「原材料高」が91.3%を占めています(帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査 2026-09-30)。さらに日本郵便は10月1日にゆうパックの基本運賃を平均約10%改定しました(日本郵便 2026-07-03)。原価も送料も上がる中で、価格を据え置いたまま利益を守るのは難しくなっています。
結論から言うと、値上げしてもお客様が離れないかどうかは、値上げの率より「価格帯の境目を越えるか」と「理由が伝わるか」で決まります。手順は、主力商品の粗利率を出し直す・競合の実質価格と並べる・価格帯の境目を確かめる・理由を一言で伝える、の4つです。値上げと同時に値下げやクーポンでごまかさないことも大事です。
まず、主力商品の粗利率を出し直す
値上げの幅は、守りたい粗利率から逆算して決めます。「周りが上げたから」で決めると、上げ幅が足りないか、上げすぎるかのどちらかになります。
粗利率は、販売価格から原価を引いた粗利を販売価格で割った率です。原価には仕入れ値だけでなく、包装資材も入れます。送料無料の注文が多い店は、送料の実費も1件あたりの費用として並べておきます。
計算の例(数字は説明のための例です)
| 項目 | 値上げ前 | 原価だけ上がった場合 | 値上げ後 |
|---|---|---|---|
| 販売価格(税抜) | 3,000円 | 3,000円 | 3,300円 |
| 原価 | 1,200円 | 1,320円(10%上昇) | 1,320円 |
| 粗利 | 1,800円 | 1,680円 | 1,980円 |
| 粗利率 | 60.0% | 56.0% | 60.0% |
原価が10%上がっただけで粗利率は4ポイント下がります。もとの60%を守るには、新しい原価を「1 − 粗利率」で割り、1,320円 ÷ 0.4 = 3,300円が値上げ後の価格の目安です。
決済手数料も見直します。ECヒーローズの講座(STEP24 自社ドメイン編)では、クレジットカードだけを見て判断するつまずきを取り上げています。コンビニ払いや後払いを併用している店は、決済手段ごとの利用比率と手数料率を掛けて加重平均し、実態に合った決済手数料率で価格を設計し直すように教えています。
競合3社以上の「実質価格」と並べる
お客様は、自分の店の価格を市場の相場と比べて高い・安いを判断します。値上げ後の価格が相場のどこに入るかを、先に確かめます。
ECヒーローズの講座(STEP10補講 買える価格を見つける)では、自分の感覚ではなく、競合店の実売価格を調べて相場観をつかむことを値付けの第一歩にしています。比べるのは表示価格ではなく、ポイント還元や送料を含めた実質価格です。相場の範囲に収まる値上げなら説明は短く済み、相場から外れるなら「なぜこの価格なのか」をお客様が納得できる形で説明する必要があります。
同じ講座では、価格には「高すぎて買えない領域」だけでなく「安すぎて信用できない領域」もあると教えています。相場より大幅に安い価格は、品質を疑われる原因にもなります。原価が上がっているのに相場より安いまま据え置いている店は、値上げで信頼を取り戻せる場合もあるということです。
価格帯の境目を越えるかを確かめる
値上げで離れやすいのは、率が大きいときより、お客様の買い方が変わる価格帯の境目を越えるときです。
講座では、価格帯ごとに買う理由が変わると説明しています。5,000円前後は「役に立つなら続ける」で明確な実用価値が必要になり、1万円前後になると「本当に元が取れるか」を考え始め、費用対効果が問われます。4,800円の商品を5,280円にする値上げは、率は10%でも、お客様の頭の中では別の価格帯の商品になります。
境目を越えてしまうときは、価格だけを上げずに、次のような組み立て直しを検討します。
- 容量やセットを変える: 同じ価格帯に収まる小さい容量と、まとめ買いのセットを並べる
- 価格階段を作る: 講座で教えている「試す価格」「継続する価格」「成果に払う価格」の3段を用意し、いきなり高い商品から売り始めない
- 上の価格帯に見合う中身を足す: 使い方の案内・保証・名入れのように、原価が増えにくい価値を足して、上の価格帯で買う理由を作る
理由を一言で伝え、既存のお客様に先に知らせる
値上げのお知らせは、理由・新しい価格・実施日の3つを短く書きます。長いお詫びより、何が上がったのかを1つ具体的に書くほうが伝わります。
2026年は値上げのニュースが毎月続いていて、値上げそのものは珍しくありません。だからこそ、自分の店の言葉で事実を書くことが信頼につながります。お知らせの文は、たとえば次の形です。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| 理由(事実を1つ) | 原料のカカオ豆の仕入れ値と、10月の配送運賃の改定により |
| 新しい価格と対象 | 12月1日のご注文から、○○を税込3,630円に改定します |
| 変えないこと | 原料と製法、1袋の量は変えていません |
| 既存のお客様への案内 | 11月30日までは現在の価格でご注文いただけます |
お知らせは、先にメールや LINE で既存のお客様に送り、そのあと商品ページとサイトのお知らせに出します。自社ドメインは価格改定を管理画面ですぐに反映できるのが強みです。講座(STEP24 自社ドメイン編)でも、自社ドメインは価格をすぐにテストし、コンバージョン率の変化を見ながら運用できる点を武器として教えています。
値上げと同時に値下げしない。サブスクと会員に特典を寄せる
値上げの直後に全員向けのクーポンを配ると、値上げの意味が消えます。特典は、関係を続けてくれているお客様に寄せます。
ECヒーローズの講座(STEP21 ボトルネックを診断する)では、コンバージョン率が課題だからといって安易な値下げで解決しようとすると粗利率が悪化し、利益が残る構造を崩すと注意しています。また STEP22 では、作業の効率化で下がるのは自社の原価であって、お客様にとっての価値ではないので、安易に値下げする必要はないと教えています。
代わりに使えるのが、サブスク(定期購入)の限定価格です。講座のケーススタディ(架空のオーガニックコスメブランド)では、自社ドメイン限定で初回30%オフ・2回目以降10%オフの定期購入価格を作り、平均継続回数が4.2回、顧客1人あたりの累計購入額が都度購入の顧客の約1.6倍になった流れで説明しています。単品の価格を上げても、続けてくれる人には得がある形にしておくと、値上げで離れる人を減らせます。サブスクの作り方は、同じブログの「新規顧客の獲得コストが高い今こそ、自社ECのリピーターを増やす会員ランクとサブスク」で詳しく書いています。
今日20分でやる作業
- 主力商品を1つ選び、最新の仕入れ値・資材費・送料の実費で粗利率を出し直す
- 守りたい粗利率から「新しい原価 ÷(1 − 粗利率)」で値上げ後の価格の目安を出す
- 競合3社以上の実質価格(ポイント・送料込み)を表にし、値上げ後の価格がどこに入るかを確かめる
- 5,000円前後・1万円前後の境目を越えるなら、容量・セット・価格階段のどれで組み直すかを決める
- 理由・新しい価格・実施日・変えないことの4つで、お知らせの文を1本書く
よくある質問
値上げは何%までなら、お客様は離れませんか?
決まった上限はありません。離れるかどうかは率より、価格帯の境目(5,000円前後・1万円前後)を越えるかどうかと、理由が伝わるかどうかで決まります。境目を越える値上げは、セットや容量の見直しと組み合わせて検討してください。
値上げの理由に「原材料高」と書いてもいいですか?
事実なら書いて構いません。2026年は飲食料品だけで2万品目を超える値上げが判明しており、理由の説明は受け入れられやすい状況です。抽象的な一言より、何が上がったのかを1つ具体的に書くほうが伝わります。
値上げと同時にクーポンを配ってもいいですか?
全員向けのクーポンは値上げの意味を消してしまいます。配るなら、既存のお客様やサブスクの継続者のように、関係を続けてくれている人に絞った特典にします。
値上げ前に買いだめされるのが心配です。
予告してから値上げまでの期間を2〜4週間程度に区切り、予告を既存のお客様への感謝の機会として使います。買いだめが起きても、それは値上げ後の離脱を前倒しで防いだ売上と考えられます。
自分の店の価格表を、理由から作り直したい方へ
この記事の手順は、ECヒーローズの講座「STEP10補講 買える価格を見つける」で市場価格表と価格階段を作り、「STEP21」「STEP22」「STEP24 自社ドメイン編」で利益が残る構造と自社ドメインの価格戦略まで仕上げる内容の入口です。まずは無料の基礎5講座で進め方を確かめ、価格の心理から始めるなら月商100万円コース(自社ドメイン)(一括69,800円・税別)、利益の構造まで組み直すなら月商1000万円コース(一括128,000円・税別)で取り組んでください。
この記事を書いた人: 江藤正親(アンリミテッドアム株式会社 CEO)。1998年から EC に携わる独立系 EC コンサルタントで、延べ1000社の EC を支援してきました。自らも、立ち上げから1年半で月商4500万円になった店を運営しています。ECヒーローズを運営するECモンスターの主催者です。
出典
この記事を書いた人
アンリミテッドアム株式会社 CEO
大学卒業後、送電線建設会社、コンサル会社、メーカーと転職の後に独立。
1998年よりECスタートし、独立系ECコンサルタントとしては日本最古。
1999年よりネットショップ運営に携わり、立ち上げ1年半で月商4500万円を達成。3年連続楽天総合3位。200社を立ち上げから年商1億円以上に導く。
最高年商10億円。商品開発からシステム開発、広告プロモーションとEC経営とシステム開発にまつわる業務に精通し、運営も行う。
サポート企業は延べ1000社を超え17名のEC関連本の著者を輩出。
自ら著書3冊を持ち、新聞、雑誌など各メディアに寄稿。
2013年設立した一般社団法人ジャパンEコマースコンサルタント協会は、最新の日本と海外最新事例をECコンサルタントにアップデートしている。
2017年には、早稲田大学主幹の一般社団法人日本イーコマース学会を設立、大学にECのカリキュラムを構築。
直近では、多くのシステム開発を要件定義から開発、納品まで、直接クライアントとやりとりし、請け負っている。
