ゆうパック値上げの今、自社ECが送料無料ラインを決め直す手順
アンリミテッドアム株式会社 CEO
日本郵便は2026年10月1日(木)から、ゆうパックとゆうパケットの基本運賃を改定しました。ゆうパックの基本運賃の平均改定率は約10%で、サイズやお届け先によって改定率は異なります。ゆうパケットは厚さ1cm以内250円・2cm以内310円・3cm以内360円だった運賃が厚さによらず360円に、クリックポストは185円から240円になりました(日本郵便「ゆうパックおよびゆうパケットの基本運賃などの改定」2026-07-03)。送料無料ラインを去年のまま据え置いている自社ECは、送料無料の注文が入るたびに、気づかないうちに利益を削っています。
結論から言うと、送料無料ラインは「1件あたりの送料の実費」と「粗利率」から計算し直し、平均客単価より少し上に置きます。先に利益が残る最低の金額を計算で出し、そのうえで、お客様が「あと1品足せば届く」と感じる位置に合わせます。この記事では、その計算式と、運賃そのものを下げる見直し、今日30分でできる作業をまとめました。
なぜ今、送料無料ラインを決め直すのか
送料無料ラインは、送料をショップが負担しても利益が残る注文額の境目です。運賃が上がれば、その境目も上がります。
自社ドメインの手数料は、決済手数料と配送コストだけのシンプルな構造です。そのぶん粗利率を高く保ちやすい一方、集客コストはすべて自分で負担します。ECヒーローズの講座(自社ドメイン編 全体まとめ)では、決済手数料・配送コスト・広告費を差し引いた利益率を必ず試算するように教えています。自社でコントロールできる数少ない費用が送料だからこそ、改定のたびに計算し直す価値があります。
改定後の運賃は、たとえば関東から発送する場合、次のとおりです(税込・窓口の基本運賃。日本郵便の別紙「ゆうパック基本運賃表(2026.10.1から)」より)。
| サイズ | 関東 → 関東 | 関東 → 近畿 | 関東 → 九州 |
|---|---|---|---|
| 60サイズ | 970円 | 1,090円 | 1,550円 |
| 80サイズ | 1,320円 | 1,440円 | 1,880円 |
| 100サイズ | 1,650円 | 1,780円 | 2,220円 |
梱包資材も改定され、ゆうパック・箱(60サイズ)は100円から110円、(80サイズ)は140円から160円になっています。運賃だけでなく、箱代も1件あたりの実費に入れて考えてください。
送料無料ラインを出すのに使う数字は3つ
使うのは、1件あたりの送料の実費・粗利率・平均客単価の3つです。どれも管理画面と請求書で分かります。
1. 1件あたりの送料の実費
配送会社に払う運賃に、箱・緩衝材・納品書などの資材費を足した金額です。契約運賃で送っている店は、窓口の基本運賃ではなく直近の請求書から1件あたりの金額を出します。お届け先が全国に散らばる店は、注文の多い地域の運賃で加重平均を取ると実態に近くなります。
2. 粗利率
販売価格から原価を引いた粗利が、販売価格の何%かです。商品ごとに違うので、まずは売上の大半を占める主力商品の粗利率で計算します。
3. 平均客単価
直近3か月の売上を注文件数で割った、1回の注文の平均額です。Shopify や BASE の管理画面の分析から出せます。送料無料ラインは、この金額との位置関係で効き方が大きく変わります。
計算の手順。送料無料ライン = 送料の実費 ÷ 送料負担の上限率
先に「注文額の何%までなら送料をショップが負担してよいか」を決め、送料の実費をその率で割ると、利益が残る最低の送料無料ラインが出ます。
送料負担の上限率は、粗利率と、1件の注文に使える広告費の上限(限界CPA)から決めます。粗利から送料を払っても、広告費と利益の分が残る率にしておくのが目安です。限界CPA の出し方は、同じブログの「広告費が上がり続ける今、自社ECが赤字にならない広告費の上限(限界CPA)の決め方」で計算式つきで書いています。
計算の例(数字は説明のための例です)
関東から関東へ60サイズで送る店で、運賃970円・資材80円、1件あたりの送料の実費が1,050円、主力商品の粗利率が50%、送料負担の上限率を15%と決めたとします。
送料無料ライン = 1,050円 ÷ 15% = 7,000円
| 注文額(税抜) | 粗利(粗利率50%) | 送料の実費 | 送料を引いた粗利 | 注文額に占める送料 |
|---|---|---|---|---|
| 5,000円 | 2,500円 | 1,050円 | 1,450円 | 21.0% |
| 7,000円 | 3,500円 | 1,050円 | 2,450円 | 15.0% |
| 10,000円 | 5,000円 | 1,050円 | 3,950円 | 10.5% |
5,000円の注文を送料無料にすると、送料が粗利の4割を食い、広告費を払う余地がほとんど残りません。7,000円を境目にすれば、送料の負担は注文額の15%に収まります。改定前より運賃が上がった分だけ、この境目も上に動くということです。
送料無料ラインは、平均客単価の「少し上」に置く
計算で出た金額が平均客単価より下なら、ラインは平均客単価の少し上に置きます。あと1品足す「ついで買い」が生まれ、客単価そのものが上がるからです。
たとえば平均客単価が6,000円の店なら、送料無料ラインを7,000円前後に置くと、カートに入れたお客様の多くが「あと1,000円」の位置にいることになります。ここで効くのが、ラインの少し下の価格の追加商品です。ECヒーローズの講座(STEP10補講 買える価格を見つける)では、迷わず払える「試す価格」の商品を入口に置く価格階段の考え方を教えています。送料無料ラインの手前に、消耗品・小分けのセット・使い方を広げる小物など、1,000円前後で買える商品を並べておくと、ラインを上げても注文は減りにくくなります。
反対に、計算で出た金額が平均客単価より大きく上なら、ラインを無理に下げずに、次の章の「運賃そのものを下げる見直し」を先に行います。ラインだけを下げると、送料無料の注文ほど赤字になる状態に戻ってしまいます。
お客様への見せ方も決めておきます。
- カートに残りの金額を出す: 「あと1,000円で送料無料です」の1行と、ラインの少し下の追加商品を並べる
- 商品ページとヘッダーに条件を書く: 「7,000円(税込)以上で送料無料」と、地域による例外があれば例外も書く
- 変更は事前に知らせる: 「10月の運賃改定にともない、11月○日のご注文から送料無料の条件を変更します」と、理由と日付を短く書く
ラインを上げる前に、運賃そのものを下げる
梱包サイズと配送方法を見直すだけで、1件あたりの送料が下がることがあります。ラインの見直しと同じ日に点検してください。
- サイズを1つ下げる: 関東から関東へ送る場合、80サイズは1,320円、60サイズは970円で、差は350円です。商品に対して箱が大きすぎないか、緩衝材の入れ方で1サイズ下げられないかを確かめます。
- 薄い商品はポスト投函の配送方法を使う: 改定後のゆうパケットは厚さ3cm以内で一律360円、クリックポストは240円です。クリックポストは改定で、サイズの上限が「3辺合計60cm・長辺34cm以内で郵便差出箱に投函できるもの」に、重量の上限が1kgから2kgに変わりました。これまで宅配便で送っていた商品が収まるか、測り直す価値があります。
- 複数の配送会社を比べる: 自社ドメインは配送会社を自由に選べるのが強みです。ECヒーローズの講座(STEP20 自社ドメイン編 受注処理・発送)では、複数の配送会社を比べて最適な業者を選び、配送日時や置き配を注文フォームの段階で指定できるようにし、出荷指示書に反映させる設計を教えています。
- 出荷件数で物流代行と自社発送の切り替えを決めておく: 同じ講座では、立ち上げ期は物流代行に任せて発送品質を安定させ、注文が増えた段階で自社の体制に切り替える順序も現実的だとしています。「限界が来たら考える」のではなく、出荷件数の目安を先に決めておきます。
講座のケーススタディ(架空のアウトドア用品ブランド)では、SNS で紹介されて注文が急増し発送遅延が常態化していた店が、注文情報と配送アプリを連携させて出荷指示書を自動で作る仕組みにしたことで、1件あたりの処理時間が導入前の半分以下になった流れで説明しています。送料の実費には、梱包と出荷にかかる人の時間も入っていると考えてください。
今日30分でやる作業
- Shopify か BASE の管理画面で、直近3か月の平均客単価と、送料無料になった注文の割合を出す
- 配送会社の直近の請求書から、1件あたりの運賃と資材費を足して「送料の実費」を出す(改定後の金額で)
- 主力商品の粗利率と限界CPA から、送料負担の上限率を決める
- 送料の実費 ÷ 送料負担の上限率で、利益が残る最低の送料無料ラインを出し、平均客単価と並べて新しいラインを1本決める
- 売れている上位3商品の箱のサイズを測り、1サイズ下げられないか、ゆうパケット・クリックポストに収まらないかを確かめる
5つ目で運賃が下がった分は、4つ目の計算に戻して入れ直してください。ラインを上げずに済む場合もあります。
よくある質問
送料無料ラインは平均客単価の何倍にすればいいですか?
決まった倍率はありません。先に「送料の実費 ÷ 送料負担の上限率」で利益が残る最低の金額を出し、それが平均客単価より下なら平均客単価の少し上に、上なら計算で出た金額に置きます。順番を逆にしないことが大事です。
配送会社と契約運賃で送っています。日本郵便の改定は関係ありますか?
契約運賃は基本運賃と別に決まるので、改定の幅は請求書で確かめてください。ただ、契約運賃も見直しの連絡が来ることが多いので、直近の請求書の1件あたりの運賃で計算し直すのが確実です。
送料無料ラインを上げたら、注文が減りませんか?
減る可能性はあります。だからこそ、ラインを上げる前に梱包サイズと配送方法を見直し、ラインの少し下の価格の追加商品を用意します。カートに「あと○円で送料無料」と出すと、あと1品の購入が生まれやすくなります。
全品送料無料にしたほうが売れませんか?
全品送料無料は、送料を商品価格に含めているのと同じです。商品価格に送料分を乗せても粗利率が保てるなら選べますが、その場合も送料の実費を1件ずつ計算に入れてください。
送料と利益の構造を、自分の店の数字で組み直したい方へ
この記事の送料の計算は、ECヒーローズの講座「STEP20 自社ドメイン編」の受注処理・発送の設計と、「STEP22 利益が残る構造をつくる」で、人件費・外注費・広告費・固定費の4つの費用を棚卸しする内容の入口です。まずは無料の基礎5講座で進め方を確かめ、続けるなら月商1000万円コース(自社ドメイン)(一括128,000円・税別・月商100万円コースの内容もすべて入っています)で取り組んでください。
この記事を書いた人: 江藤正親(アンリミテッドアム株式会社 CEO)。1998年から EC に携わる独立系 EC コンサルタントで、延べ1000社の EC を支援してきました。自らも、立ち上げから1年半で月商4500万円になった店を運営しています。ECヒーローズを運営するECモンスターの主催者です。
出典
この記事を書いた人
アンリミテッドアム株式会社 CEO
大学卒業後、送電線建設会社、コンサル会社、メーカーと転職の後に独立。
1998年よりECスタートし、独立系ECコンサルタントとしては日本最古。
1999年よりネットショップ運営に携わり、立ち上げ1年半で月商4500万円を達成。3年連続楽天総合3位。200社を立ち上げから年商1億円以上に導く。
最高年商10億円。商品開発からシステム開発、広告プロモーションとEC経営とシステム開発にまつわる業務に精通し、運営も行う。
サポート企業は延べ1000社を超え17名のEC関連本の著者を輩出。
自ら著書3冊を持ち、新聞、雑誌など各メディアに寄稿。
2013年設立した一般社団法人ジャパンEコマースコンサルタント協会は、最新の日本と海外最新事例をECコンサルタントにアップデートしている。
2017年には、早稲田大学主幹の一般社団法人日本イーコマース学会を設立、大学にECのカリキュラムを構築。
直近では、多くのシステム開発を要件定義から開発、納品まで、直接クライアントとやりとりし、請け負っている。
